「派遣」「SES」「請負」と、いわゆるSIer、もしくはその外注先のエンジニア派遣を行っている企業で働いている方は必ず耳にする言葉かと思います。
が、正直いってあまり詳しく理解していない方が多いように見えます。
ぶっちゃけ、仕事するうえでは知らなくても困ることってあまりないですもんねー
ですが、上流工程に関わるエンジニアや、営業担当は知っておくべき知識です。
この記事では、それぞれの契約形式の違いについて説明します。
前置き
この記事は、新卒・若手から中堅くらいのSIerや派遣会社所属のエンジニアや営業、フリーランスの方向けとなります。
初めに書いた通り、知らなくても普段の業務を行う上で困ることはほぼありませんが、顧客との折衝や顧客と揉めたとき、または揉めないために知っていると役立つ知識なので、押さえておきましょう。
本記事でははじめに表形式で違う点を書き出してから、各契約について説明していきます。
では、さっそく見ていきましょう。
派遣とSESと請負の違い
まとめるとこんな感じです。
業務を行う場所 | 契約上、業務に従事する 個人を特定するか | 指揮命令系統 | 完成義務 | |
派遣 | 客先 | する | 顧客→各メンバ | なし |
SES | 客先・自社 | しない | 顧客→リーダ→各メンバ | なし(※) |
請負 | 基本的に自社 | しない | 顧客→リーダ(→各メンバ) | あり |
※完成責任はありませんが、善管注意義務は存在します。
それぞれ見ていきます。
派遣
派遣契約とは、労働力を必要とする顧客に対して、社員をを派遣して業務を遂行させる契約形式です。
2015年の派遣法の改正によって3年の経過期間が設けられていた特定派遣が2018年になくなり、現在はエンジニアの派遣も一般派遣の扱いになります。
これによって、派遣により客先の業務に従事するエンジニアの視点で見ると、正社員ではなく登録型の派遣会社に所属している場合に、一部の例外ケースを除いて最長3年の期限が設定されるようになったことが大きな違いになります。
長期間同じ現場に就業していた派遣社員の方は、客先の企業に正社員雇用されるか、契約終了となったため、影響を受けた方は大変だったかと思います。。。
勤務先は、客先企業となります。エンジニアはあまり見る機会がないかもしれませんが、契約書に個人の指名を記載する必要があるので、業務に従事する個人が特定されます。
ちなみに、派遣契約の多重に結ぶのは明確に違法です。
下で詳しく説明します。
SES
SESとはシステム・エンジニアリング・サービス(System Engineering Service)の略です。
概要としては派遣と同じく、労働力を必要とする顧客に対して、社員をを派遣して業務を遂行させる契約形式ですが、指揮命令権が顧客にないのが明確な違いとなります。
というのも、SESは発注企業と、受注企業間の準委任契約にあたるためです。
準委任契約は法律行為以外の事務を委託する契約を指します。ここでいう事務にシステム開発などが含まれるわけですね。
準委任契約では、発注企業が受注企業に対して特定業務を依頼し、受注企業内で進捗の管理をしつつ業務を遂行していきます。発注企業が受注企業の開発者に直接指示を出してはいけません。あくまで発注企業は受注企業(実態は受注企業に所属するリーダ)に指示を出して、受注企業内でチームの管理をする必要があります。
「チーム」という言葉を使いましたが、SESは受注企業の社員をリーダとして、チームを作って業務遂行するのがあるべき形です。
一応自社社員1名だけSESで契約締結するのも問題ではありません。
SES契約では成果物を完成させる義務は存在しません。よって、発注側で検収を行ったりすることも契約上は必須ではありません(実態は検収に相当するチェック業務が必要なケースはあると思います)。ただ、SES契約では善管注意義務が存在します。
善管注意義務とは以下の通りです。
債務者の属する職業や社会的・経済的地位において取引上で抽象的な平均人として一般的に要求される注意をいう
ウィキペディア「注意義務」のページから引用
ぱっと見わかりにくいですが、「手抜きしないでちゃんと仕事しようね」ということです。
この善管注意義務の定義がふんわりしているため、炎上した大規模プロジェクトなどでは係争に発展しがちです。
いちエンジニアとしては、「しっかり業務を遂行していたことを示す証跡を残す」ことが大事です。こうすることでリスクヘッジになります。
派遣とSESによる違法行為について
派遣の項目でも触れましたが、派遣契約を多重に結ぶのは無効です。
また、SESと派遣を組み合わせた形式でも、違法の場合もあります。上記の例で、受注企業Bから派遣契約で受注企業Aと契約したエンジニアが、発注企業にSES契約を締結して受注企業Aの社員以外から指示を受けて業務を行うのも違法です。
あくまで、このケースでは受注企業Bに所属するエンジニアは受注企業Aの社員から指示を受けて業務を遂行しなければいけません。
これは「偽装請負」などと呼ばれます。
受注企業Aに所属する社員も同じ現場で仕事しているが、実態は発注企業の社員から指示を受けている、というケースは結構あるかと思いますが、これは業界的にグレーな部分です。
発注企業側からしたらその社員がA社の社員なのかどうかはわかりませんし。
みんなやってるからええやろ、みたいになりがちです。
エンジニア視点だと、自分が派遣契約なのか、SES契約なのかがわかりにくいのもよろしくないですよね。
請負
請負契約とは、発注企業と受注企業で取り決めした成果物の完成責任を負う契約です。
昔ながらのウォーターフォール型開発では、開発フェーズ~納品までのフェーズに請負契約締結するケースが多いです。
では、要件定義・基本設計といった上流工程はどうするかというと、SES契約の項目で触れた準委任契約を締結します。
要件が膨れるかもしれない中で、要件定義や基本設計の契約を完成責任を伴う請負契約で締結するのは、リスキーですもんね。
余談ですが、準委任と請負、どちらの契約を締結しているかは、担当者間で明確にしておくべきです。
この認識が合わずに、要件が膨らんだことによって納期が延びたり、追加の要件が発生した際に揉めることがあります。
発注企業の担当者がこの認識を持っていないケースもあるので、受注企業側の上流工程を担当するエンジニアが気にしておいた方がよいです。
また、請負契約では、発注企業側に検収と呼ばれる納品物を検査する作業が義務付けられているのですが、これを認識していない発注企業担当者が経験上とても多いです。きちんと検査してもらうように働きかけましょう。
2020年4月に、瑕疵担保責任のルールが変更に
民法の条文上、「瑕疵担保責任」から「目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない(契約不適合)」に文言が変更されました。
瑕疵とは、ざっくり説明すると納品・検収後に見つかったバグを指します。
文言の変更だけなら業務上は影響がないのですが、他にもあります。
ひとつめは、「代金の減額請求が可能になった」こと。
大規模なプロジェクトでなければ、契約時の取り決めで損害賠償の最大額は発注額まで、として契約を締結しているケースが多いかと思いますので、あまり違いはないはずです。
揉めた際の落としどころが増えたということで、発注企業・受注企業いずれにもメリットがあるのではないでしょうか。
ふたつめは、「瑕疵担保責任期間が延びた」こと。
改正前は「「引渡された時 または 仕事完成時」から1年以内」であったのに対して
「バグを「知った時」から1年以内(ただし、納品から最大5年以内の上限あり)」に変わっています。
とはいえ、基本的に瑕疵担保期間については個別契約書に記載されており、民法より個別契約書の記載内容が優先されるため、多くの場合は問題ありません。
今後は、初回の契約などのタイミングで、瑕疵担保期間について発注企業・受注企業間で調整が入るケースが増えるかもしれませんね。
まとめ
以上、派遣とSESと請負の違いでした。
他サイトさんの記事を拝見して、おや?と思ったので記事にしてみました。
(ごめんなさい!噛みついたわけじゃないよ!)